スチレン系ブロック共重合体とは?
スチレン系ブロック共重合体(SBC)は、熱可塑性エラストマー(TPE)の一種で、広く使われているポリマーです。TPEは、ゴムのような弾性を持ち、優れた加工性を有する熱可塑性材料です。
SBCは、TPS(Thermoplastic Styrenic Elastomers;熱可塑性スチレン系エラストマー)と呼ばれるTPEコンパウンドのベースポリマーとして使用されます。 TPSは、やはりTPSと略される熱可塑性デンプン(Thermoplastic Starch)と混同されやすいので注意してください。
分子構造的には、SBCは一般的に硬い熱可塑性ポリスチレンのエンドブロック2つと、柔らかいエラストマーのミッドブロック1つから構成されています。とはいえ、さまざまなブロック構成をとることができます。
- ジブロック(ポリスチレンブロック-エラストマーブロック)
- リニアトリブロック(ポリスチレンブロック-エラストマーブロック-ポリスチレンブロック)
- 放射状構造などの多様な分岐構成
特性
この表は、SBCの特性を他のTPEと比較したものです。
特性/材料 | TPS | TPO | TPVC | TPU | TPC | TPA |
ショア硬度 | 30A 〜 70A | 60A 〜 95A | 40A 〜 70A | 80A 〜 80D | 90A 〜 70D | 40D 〜 65D |
引張強度(MPa) | 9.8 〜 34.3 | 2.9 〜 18.6 | 9.8 〜 19.6 | 29.4 〜 49 | 25.5 〜 39.2 | 11.8 〜 34.3 |
伸び(%) | 500 〜 1,200 | 200 〜 600 | 400 〜 500 | 300 〜 800 | 350 〜 450 | 200 〜 400 |
反発弾性(%) | 45 〜 75 | 40 〜 60 | 30 〜 70 | 30 〜 70 | 60 〜 70 | 60 〜 70 |
密度(g/cm³) | 0.91 〜 0.95 | 0.88 | 1.2 〜 1.3 | 1.1 〜 1.25 | 1.17 〜 1.25 | 1.01 |
耐摩耗性 | △ | ⨯ | △ | ⦾ | △ | ○ |
室温での曲げ抵抗 | ○ | △ | ○ | ○ | ⦾ | ⦾ |
耐熱性 | 〜 80°C | 〜 120°C | 〜 100°C | 〜 100°C | 〜 140°C | 〜 100°C |
耐油性 | ⨯ | △ | ○ | ⦾ | ⦾ | ⦾ |
耐候性 | ⨯ 〜 ○ | ○ | △ 〜 ○ | △ 〜 ○ | △ | ○ |
脆化温度 | < -70°C | < -70°C | -50°C 〜 -30°C | < -70°C | < -70°C | < -70°C |
用途 | フットウエア、樹脂ブレンド、接着剤、アスファルト改質剤 | 自動車用ホース/チューブ、日用品 | 自動車用ワイヤ・ケーブル、土木・建築 | フットウエア、工業製品、日用品、医療製品 | 自動車、エレクトロニクス、工業製品 | スポーツ用品、工業用品 |
機械的特性
SBCの基本的な機械的特性は、ゴムのような弾性と優れた柔らかさの組合せです。そのため、スポーツ用品やフットウエア、日用品、自動車、エレクトロニクス、医療 用途など、さまざまな産業におけるソフトタッチの用途に適しています。全リストは以下を参照してください。
より高い硬度と機械的強度を必要とする用途には、TPU、TPC、TPAなど他のTPEの方が適していることがあります。
密度
SBCはTPU、TPA、TPC、TPVCに比べて密度が低く、TPOやTPVと同程度の密度です。
熱特性
SBCの耐熱性は、エンドブロックの化学構造とガラス転移温度に依存します。最高使用温度は〜80℃です。脆化温度とは 、ポリマーがゴムのような状態から、より硬く壊れやすいガラス状態へと転移する温度です。SBCは脆化温度が低いため、優れた耐衝撃性と柔軟性を必要とする低温用途に使用できます。
実測値については、上記の表を参照してください。
分子量分布
TPSがリビングアニオン重合で製造されるため、SBCは他のTPEに比べて分子量分布幅が狭くなっています。
加工性
SBCは 射出成形押出成形、押出ブロー成形、3Dプリントが可能です。このような加工性を備えていることに加え、優れた性能特性を備えていることから、SBCは多くの産業において幅広い用途に選択される優れた材料となっています。
SBCは溶融と再成形が可能なため、リサイクルが可能で、低廃棄物処理も可能です。
SBCと他の材料の比較
SBCは、シリコーン、EPDM、天然ゴムとは異なり、架橋を持たない熱可塑性エラストマーです。しかし、SBCはその分子構造によって弾性を示します。
スチレン系ブロック共重合体開発の歴史
1962年、SBCの初期の特許のひとつがシェルUSA社によって出願されました。(US3265765)。1964年、スチレン-ブタジエン-スチレンのトリブロック共重合体(SBS)がシェルのパイロットプラントで製造され、翌年にはシェルによって商業化されました。SBSの最初の顧客は、マサチューセッツ州の靴メーカー、スコッティ・シューズでした。1964年には、水素添加スチレン系ブロック共重合体(HSBC)の最初の特許のひとつも出願されました(US3431323)。1960年代後半、HSBCは商業規模で利用できるようになってきました。
製造方法
SBCはアニオン重合によって製造されます。アニオン重合は、精密にデザインされた構造と目的に合わせた材料特性を持つポリマーを合成するための、汎用性の高い強力な技術です。
SBCの種類
SBCには2つのカテゴリーがあります。
- 非水素添加スチレン系ブロック共重合体(USBC)
- 水素添加スチレン系ブロック共重合体(HSBC)
USBCとは?
非水素添加スチレン系ブロック共重合体(USBC)は、スチレンとジエンのモノマー単位がブロック状に配列した構造からなっています。ジエンブロックはポリブタジエン(PB)、ポリイソプレン(PI)のどちらも可能です。USBCは水素添加工程を経ていないので、不飽和ジエンブロックを保持しています。
このため、水素添加されたものと比べて反応性が高く、架橋や官能基化などの化学反応によってさらにカスタマイズが可能です。HSBCに比べて優れたエラストマー特性を示し、加工コストも低くなっています。
しかし、不飽和ジエンであり、劣化しやすいので、熱安定性、耐薬品性が低く、経年劣化の影響を受けやすくなっています。USBCは、時間の経過とともに黄色味を帯びやすくなります。これは、用途によっては問題になりませんが、透明なTPEが好まれる包装や医療などの用途では問題となります。
USBCの種類
略語 | 分子構造 | クラレの製品 |
SBS | スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体 | 該当なし |
SIS | スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体 | 該当なし |
V-SIS | ビニル結合に富むスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体 | ハイブラ-™ 5000シリーズ |
HSBCとは?
水素添加スチレン系ブロック共重合体(HSBC)は水素添加工程を経て、ジエンブロックの不飽和結合を化学的に飽和させます。これにより、ジエンブロックは、エチレン/ブチレン(EB)、エチレン/プロピレン(EP)、エチレン/エチレン/プロピレン(EEP)などの飽和ブロックに変換されます。
その結果、HSBCはUSBCに比べて 熱安定性、耐久性、耐候性、耐薬品性、UV耐性が向上しています。黄変もかなり少なくなっています。自動車、エレクトロニクス、医療などの産業における特に要求の厳しい用途には、より良い材料となる可能性があります。
水素化処理工程が追加されるため、HSBCはUSBCに比べて加工コストが高くなる可能性があります。一旦水素化されると、SBCは反応性が低下するため、さらなる化学修飾や架橋オプションの利用が制限されます。
HSBCの種類
略語 | 分子構造 | クラレの製品 |
SEP | スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体 | セプトン™ 1000シリーズ |
SEPS | スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体 | セプトン™ 2000シリーズ |
SEEPS | スチレン-エチレン/エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体 | セプトン™ 4000シリーズ |
SEBS | スチレン-レン/ブチレン-スチレンブロック共重合体 | セプトン™ 8000シリーズ |
V-SEPS | ビニル結合に富むSEPS | ハイブラ-™ 7125F |
V-SEEPS | ビニル結合に富むSEEPS | ハイブラ-™ 7311F |
特殊グレード | セプトン™ Vシリーズ セプトン™ Jシリーズ セプトン™ Qシリーズ セプトン™ BIOシリーズ |
SBCの用途
クラレのSBCをご覧ください
医療用SBC
特定のグレードのSBCは、規制要件をクリアし、さまざまな医療用途(皮膚接触、血液接触など)で承認されています。
詳細については、医療グレードTPEのページをご覧いただくか、お問い合わせください。弊社の専門家が喜んでアドバイスいたします。
ホットメルト接着剤中のSBC
ホットメルト接着剤もSBCの一般的な用途です。SBCは、接着性を提供するために不可欠な成分です。クラレは、加工性と性能特性に優れた材料を提供しています。
ホットメルト接着剤に関するその他の資料はこちらをご覧ください。
- 接着剤、コーティング剤、シーリング剤
- クラリティ™
- ポリマー接着剤(link coming soon)
ポリマー改質に使用されるSBC
SBCは広範な汎用性を備えているので、お客さまは幅広い業界の特定の用途に合わせてポリマーを調整することができます。自動車部品から包装材料、建設製品から 日用品に至るまで、SBCは数え切れないほどの革新的なソリューションでその価値を証明してきました。
SBCをポリマーブレンドに組み込むことで、お客さまは製品の寿命と耐久性を向上させ、頻繁な交換を不要にし、廃棄物を最小限に抑えることができます。SBCは、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)の改質剤として有用です。
耐衝撃性と柔軟性を改善したSBCによって、より長寿命で耐久性の優れた製品開発が可能になり、環境負荷の低減につながります。
SBCはまた、軽量かつ強靭なポリマー・ソリューションの創出を可能にし、全体的な材料消費量と二酸化炭素排出量を削減します。その汎用性により、製造工程におけるエネルギー消費を削減することで、加工特性を最適化することができます。ポリマー改質剤としてのSBCの詳細については、こちらをご覧ください。
粘度指数向上剤として使用されるSBC
正確な粘度分布を得ることが目的の場合、SBCは非常に効率的で汎用性が高く、粘度調整剤として優れています。これらのポリマーは、低濃度で潤滑油の粘度を大きく変化させることが可能で、卓越した増粘能力をもたらします。
SBCの際立った特徴のひとつは、そのせん断安定性で、さまざまなせん断条件や温度範囲にわたって粘度が一定に保たれます。このため、安定性と信頼性の高い流量制御が極めて重要な、強い機械力を伴う用途に最適です。粘度指数向上剤としてのSBCについて詳しくはこちらをご覧ください。
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