サステナビリティ
過去、樹脂製品のほとんどは石油化学由来のものでしたが、近年、再生可能なバイオマス原料を使用した樹脂も登場しています。バイオベースポリマーとは、樹脂の少なくとも一部が、サトウキビやトウモロコシなどの再生可能な原料に由来する材料で作られた製品です。バイオ由来原料の他に、石油化学由来の原料が利用されることもあります。バイオ由来原料をより多く使用することで、樹脂製造が気候変動にもたらす影響を軽減し、そのプロセスをより持続可能なものにすることができます。
石油化学由来の樹脂とバイオ由来の樹脂
バイオベースポリマーは、石油やガスなどの石油化学由来ではなく、バイオマスなどの再生可能資源から作られるもので、持続可能な選択肢です。ほとんどの場合、生化学的または生物学的に合成されます。このようなバイオマス原料によって製造される製品は、「カーボンニュートラル」であり、「カーボン・オフセット」に貢献します。バイオベースポリマーの燃焼時に発生する二酸化炭素は、もともとバイオマス原料が空気中から取り込んだものです。つまり、燃焼してももともと大気中にあった二酸化炭素が戻っただけで、二酸化炭素は増加していないとみなせます。
石油、石炭、ガスなどの石油化学資源を集中的に使用すると、気候変動に悪影響が及ぼされます。気候変動は、大気中の温室効果ガスの濃度上昇と直接的に関係しています。最も一般的な温室効果ガスは、石油化学資源の燃焼によって発生する二酸化炭素です。再生可能な資源をより多く使用することで、大気中への二酸化炭素排出量を削減することができます。
炭素循環に対して、私たち人間が石油化学由来の資源を持ち込むと、自然本来のバランスが崩れてしまいます。石油化学由来の製品(燃料、化学物質、樹脂など)からの二酸化炭素排出量が増えると、排出された二酸化炭素のほとんどが、光合成やその他の自然による循環により相殺することができないため、大気中の二酸化炭素濃度が上昇します。その結果、温室効果が発生し、ひいては、地球規模の気候変動が引き起こされるのです。
従来の樹脂は、そのほとんどが石油化学由来の原料から製造されています。したがって、樹脂の製造にバイオマスなどの再生可能な資源をより多く利用することは、温室効果の削減につながります。
バイオベースポリマーの強み
バイオベースポリマーは、石油化学由来の原料の代わりに、再生可能な資源(バイオマス)を用いることで製造されます。生産過程においてバイオ由来の原料を使用することで、最終製品に含まれる生物学的物質の割合が高まり、低環境負荷をうたうことが可能になります。
「バイオ由来」と「生分解性」の関係
よくある思い違いとして、「バイオ由来=生分解性」というイメージがあります。しかし、バイオ由来と生分解性は必ずしもイコールではありません。バイオベースポリマーが生分解性になることもありますが、そうではない場合もあります。
バイオ由来とは、あくまでも原料の起源の話です。バイオベースポリマーは、再生可能な原料によって製造された樹脂であることを意味します。一方、生分解性は機能的な属性で、原材料が微生物の栄養分となり分解されることを意味しています。
C14法を使用して、原材料がバイオ由来であるか、つまりASTM International策定のASTM D6866規格への準拠が認定される可能性があるかどうかを確認できます。認証は、DIN CERTCO(ドイツ)またはTÜV Austria(ベルギー)により与えられます。バイオベースポリマーに含まれる炭素のうち、環境負荷の低い資源に由来するものの割合に応じて、最終製品に付される認証ロゴが変わります。
生分解性は、欧州規格DIN EN 13432およびDIN EN 14995、米国規格ASTM D6400の要件を満たす標準化された試験を用いて判定することができます。将来的には、樹脂が生分解性を有するかどうかを見極め、非分解性の樹脂を生分解性に変えること目的とした研究が実施されることが予想されます。
生分解性の試験
樹脂の生分解性は、その原料ではなく、化学構造により決まります。バイオベースポリマー全体のうち半分以上は、適切な条件下で生分解性を示し、回収やリサイクルができないことで環境に負荷をかける樹脂に代わる選択肢となります。
なお、それ自体では生分解性のない樹脂の中には、添加剤によって生分解を促進させることができるものもあります。
C14の重要な役割
現在、樹脂に含まれるバイオ由来の成分を特定する手法が開発されています。これには主に樹脂中に含まれるC14の濃度測定が用いられます。すべての生物の組織中にこの同位体が非常に低い濃度で存在しています。C14自体は不安定ではあるものの、生物と環境の絶え間ない相互作用の結果、その濃度は一定に保たれています。
生物は、生命活動を終えると、大気中のC14原子を吸収しなくなります。すなわち、組織中のC14の濃度がそれ以降低下していきます。C14の半減期はおよそ5,700年です。5万年後には物質中のC14が検出できない値になります。だからこそ、石油化学資源(石油、ガス、石炭)はもとより、それを原料とする製品からC14は検出されません。一方、再生可能な原料を用いて製造された製品では、C14の濃度が測定できます。このようにして、石油化学由来の樹脂とバイオ由来の樹脂を区別したり、ポリエチレンなどの樹脂中のバイオマス濃度を測定したりすることが可能です。
生分解性の標準的な試験方法
生分解性や堆肥化性などの特性は、さまざまな国際規格で定義されています。これら規格に適合するためには、自然界に存在する微生物により完全に生分解されるものでなければなりません。
とはいえ、使用目的に合った性能を備えていれば、たとえ正式な規格に準拠していないバイオベースポリマーであっても、魅力的な素材として検討に値する選択肢となるでしょう。これは、石油化学由来の資源を部分的に代替し、最終製品に含まれるバイオ由来の物質の割合を増やすことに貢献します。
バイオ由来原料を用いた樹脂の製造
一口にバイオベースポリマーの製造と言っても、樹脂を製造する方法と、バイオ由来モノマー製造後に化学的に重合する方法の2種類があります。
直接的な製造はさらに、微生物、藻類、植物、独立栄養細菌の生合成に分けられます。植物由来の樹脂で最も一般的なのはセルロースを用いたもので、大量に入手することが可能です。他にも、ヘミセルロース、デンプン、イヌリン、ペクチンが一般的です。主な多糖類はキチンとキトサンで、これらは昆虫や甲殻類の外骨格に含まれており、特定のキノコにも存在します。微生物もまた、細胞外多糖類(EPS)の重要な供給源となります。バイオベースポリマーの主な供給源として、バクテリア、菌類、藻類などが利用されます。
2つ目の製造方法は、バイオ由来モノマーの重合です。出発点として、1,3-プロパンジオール(PDO)を用います。この二価アルコールは、嫌気性発酵から得られるものの中でも最も古くから知られる選択肢の1つです。これは、バイオディーゼルの副産物であるグリセリンから、バクテリアの力を借りて製造されます。以前は、バイオディーゼルの普及によりグリセリンが過剰に生産されることが予想されていましたが、実際はグルコースよりも価格が高いままです。
PDOの成功は、バイオ由来モノマーと従来のモノマーを結合させる他の手法の研究につながり、ひいては、樹脂中のバイオ比率を増やすことに寄与しました。そのため、価値ある一歩とみなされています。PDOの開発により、バイオ由来モノマーから新しい樹脂が合成されるようになりました。例えば、乳酸からポリ乳酸(PLA)、コハク酸からポリブチレンサクシネート(PBS)、バイオベースのエタノールからポリエチレンが合成されます。クラレでは、スチレンとバイオ由来原料β-ファルネセンから水素添加スチレンファルネセンブロック共重合体(HSFC)などが製造されています。
バイオ由来原料を用いた樹脂の例
〈セプトン®〉 BIO-シリーズは、ポリスチレンのハードブロックと、サトウキビ原料のバイオ由来モノマーであるβ-ファルネセンを重合して得られるソフトブロックから構成される水添スチレン-ファルネセン共重合体(Hydrogenated Styrene Farnesene Copolymer: HSFC) であり、良好なグリップ性、接着力、制振性を有します。〈セプトン〉 BIO-シリーズはバイオマス成分を約50〜80%含み、最終製品のバイオマス度を高めることができます。
クラレの液状ファルネセンゴムには、β-ファルネセンのホモポリマー、またはβ-ファルネセンとブタジエンの共重合体があります。主にタイヤをはじめとするゴム製品に使用されています。クラレはこのような材料の開発によって社会の持続可能な発展に貢献します。
バイオ由来原料を用いた樹脂を取り巻く業界の現状
近年、バイオ由来原料を用いた樹脂の製造は、以前に比べはるかに専門的で差別化されたものになっています。多くのメーカーやサプライヤーが、事実上すべての用途に対応するバイオ由来の代替品製造に着手しています。バイオベースポリマーの製造元はすでに多岐にわたるため、製造設備やその設置計画、稼働状況を把握するのは困難です。
ドイツのnova-Instituteによる、国際的な専門家やバイオベースポリマーに携わる人々への聞き取りを伴う詳細な調査によって、市場の様相が明らかになっています。nova-Institute発行の最近の市場・トレンドレポート『Bio- based Building Blocks and Polymers – Global Capacities, Production and Trends 2019-2024』によると、バイオベースポリマーはいまだに小さなニッチ市場です。同レポートの説明では、2019年のバイオベースポリマー総生産量は380万トンでした。これは、石油化学由来の樹脂総生産量のわずか1%ですが、2018年よりも約3%増加しています。しかし、2020年から2027年のバイオベースポリマーの生産能力と生産量の年平均成長率(CAGR)は、13.8%程度になると予想されています。
バイオベースポリマーの社会的認知度の低さ
現在、バイオベースポリマーに対する支援は十分とは言えません。製造工程で化石由来の炭素ではなくバイオマスから得られる再生可能な炭素を使用していること、また多くのポリマーが生分解性であること、というバイオベースポリマーの利点は軽視されています。現在、バイオベースポリマーは、持続可能性と経済効率の狭間で最低レベルの妥協点とみなされています。
2019年、欧州連合は2021年夏以降、代替品が存在する場合には使い捨てプラスチックの使用を禁止することを法制化しました。生分解性の、または、バイオ由来の原料から製造された製品も例外ではありません。ほとんどすべてのバイオ由来のプラスチックと生分解性プラスチックが、石油化学由来のプラスチックとひとまとめにされました。自然界に存在する樹脂のみが対象外となっています。
つまり、バイオベースポリマー市場は現在苦境に直面しているのです。
今後の展開
完全にバイオ由来の生体材料(ポリヒドロキシアルカノエート[PHA]、多糖類など)を独自に製造することは、未だ容易ではありません。そのため、既存の石油化学由来の樹脂を部分的にバイオ由来の樹脂に変える研究や、新たな部分的バイオベースポリマーの開発が進められています。
遺伝子技術の開発により、完全なバイオ由来の樹脂のさらなる開発が期待されます。しかし、現時点では、バイオ由来の樹脂は、持続可能性とコスト効率の間の妥協点として、未だに最小公倍数にとどまります。急速に変容する今日のグローバル化した市場においては、価格も理想主義も、バイオベースポリマーの将来を左右する真の原動力とは言えません。最終的に、この素材が成功を収めるための鍵となるのは、その性能と特性です。中期的には、これらの側面が研究の焦点となるでしょう。
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